【まとめ】DNA複製のメカニズムをわかりやすく解説【高校生物】

DNA複製は高校生物の最初の難関です。

このレポートでは、DNAがどのような仕組みで複製されるのかをどこよりもわかりやすく説明します。岡崎フラグメント、ラギング鎖といった用語についても全てまとめています。

なぜDNAをコピーする必要があるのか?

具体的な説明の前に、DNA複製という現象をマクロな視点で再確認しましょう。

細かいメカニズムばかりに気を取られて、結局全体像が掴めていない、という受験生・高校生が非常に多いです。

例えば、複製と転写・翻訳がゴチャゴチャになっていませんか?

複製とはDNAを丸ごとコピーすることが目的であり、転写・翻訳とはタンパク質を合成することが目的です。目的が全く違います。

そもそも、なぜDNAをコピーする必要があるのか、説明できますか?

生物の体は細胞から出来ていますが、細胞には寿命があります。そのため、生物が子孫を増やすのと同じように、細胞分裂を繰り返しています。

細胞の中には核があり(真核生物の場合)、核の中にはDNAがあります。

生物の体はタンパク質から出来ていますが、タンパク質を作るためにはDNAが欠かせません。

そのため、細胞分裂をする前に、DNAをコピーして2倍にし、その後に2つの細胞に分裂しなければならないのです。

細胞周期というものがありました。DNAをコピーする時期をS期(DNA複製期)と言います。

これから説明するDNA複製のメカニズムとは、このS期で一体何が起こっているのかを、詳しく解説したものです。

半保存的複製とは?
~まずはゴールを理解しよう~

詳しいメカニズムの説明に入る前に、「半保存的複製」について例え話で理解しましょう。少々強引な例えですがついてきてください。もっと良い例えが思いついた人はコッソリ教えてください。

ウサギ君はお気に入りのマンガ「鳥獣ギガ」(1巻で完結)があります。あまりにも好きな作品なので、全く同じものを2冊持っています。

ウサギくんはこの小説を友達のカエル君にも布教したいと思いました。

そこで、ウサギくんは、新しく「鳥獣ギガ」を2冊買ってきました。

そして、自分が前から持っていたうちの1冊と、新しく買ってきたうちの1冊、合わせて2冊をカエル君にプレゼントしました。ちょっと不思議な渡し方ですね。

つまり、最終的には

ウサギくんは「古い鳥獣ギガ+新しい鳥獣ギガ」
カエルくんも「古い鳥獣ギガ+新しい鳥獣ギガ」

が手元に残ったということです。

実はこれと同じ仕組みが半保存的複製です
半保存的複製とは、古いDNA鎖と新しいDNA鎖を1本ずつ引き継ぐということです。

これが分かってしまえば、細かいメカニズムも絶対に理解できるはずです!

DNA複製のメカニズム

いよいよ本題です。でも、「DNAの複製は半保存的複製」ということがしっかり理解できていれば、あとはちょろっと肉付けしていくだけです。

DNA複製①: 水素結合の切断

DNAは2本の鎖から出来ており、水素結合で繋がっています
(DNAの構造や水素結合についてはここでは詳しく説明しません)

DNAをコピーするためには2本の鎖がくっついたままだと邪魔なので、まずはこの水素結合をブチブチっと切っちゃいます。

水素結合を切断する酵素はDNAヘリカーゼです。

「開裂」ってなに?

漢字の通り「裂けて開くこと」です。DNAヘリカーゼによって水素結合が切断されると、最初はくっついていたDNAが1本ずつに分かれていきます。これを開裂と表現します。

DNA複製②: プライマーの結合

まず、基本的な生物用語を確認しましょう。

今はDNAをコピーしたいので、当然、元のDNA鎖と全く同じ新しいDNA鎖を合成する必要があります。

この「元のDNA鎖」を鋳型(いがた)鎖、「新しいDNA鎖」を新生鎖と呼びます。
また、自分とペアになる、もう片方の鎖を相補鎖と言います。

入試やテストで問われる生物用語ではないですが、これからよく使うので必ず覚えておいてください。

新生鎖を合成するために働く酵素が、DNAポリメラーゼです。DNAポリメラーゼはコピー機と同じです。

DNAポリメラーゼが鋳型鎖をスキャンしていくことで、相補的な新生鎖が合成されていきます。

しかし、残念ながらDNAポリメラーゼは何もないところからいきなり鋳型鎖に結合することはできません。

ここで登場するのがプライマーです。プライマーはDNAポリメラーゼがコピーを始めるための足がかりです。

まず初めにプライマーと呼ばれる短い配列(※)が鋳型鎖の相補鎖となり、それをドンドン伸ばすようにDNAポリメラーゼが新生鎖を合成するという流れになっているわけです。

(※このプライマーと呼ばれる短い配列は生体内ではDNAではなくRNAで出来ています。「どういうこと?何の話?」って思いますよね。しかしこれは大して重要な話ではないので、今は忘れてください。最後に補足解説しています。)

DNA複製③: 新生鎖の合成

プライマーを足がかりに、DNAポリメラーゼがモリモリと新生鎖を作っていきます。

ところで、DNAポリメラーゼは好き勝手な方向に動いてコピーを作れるわけではありません。
(そもそも、めちゃくちゃなコピーが出来たら困りますよね)

DNAポリメラーゼの進行方向には制限があり、5末端から3末端方向にしか動くことができません。

DNA鎖には方向性があり、片側を5末端、もう片側を3末端と呼ぶんでしたね。

この5末端→3末端という方向性は、DNAポリメラーゼが作る新生鎖から見た方向です。

とても大事なことなのでもう一度繰り返します。

5末端→3末端にしか進めないという方向性は、DNAポリメラーゼが作る新生鎖から見た方向です。

鋳型鎖から見て5末端→3末端ではないので気をつけてくださいね。
必ず、DNAの2本鎖同士は道路の対向車線のようになっています。

さあ、これでそれぞれの鋳型鎖に新生鎖が合成され、無事に「古いDNA鎖+新しいDNA鎖」のペアが2つ出来ました。DNA複製の完了です。

これにてめでたしめでたし...と言いたいですが、ここに最大の難所があります。

DNA複製④: 高校生物の最初の難関 ~岡崎フラグメントの意味~

さて、DNAポリメラーゼによる新生鎖の合成では、「ある問題」が発生します。

高校生・受験生がつまづくポイントは大体ここです。

その「ある問題」とは、

「DNAヘリカーゼによる2本鎖の開裂方向と、DNAポリメラーゼによる新生鎖の合成される進行方向が、逆になってしまう鎖(ラギング鎖)があるため、そこでは新生鎖を不連続に合成する必要がある」

ということです。うん、これで理解できたら君は天才です。イラストで確認しましょう。

ここは静止画をボンヤリ眺めていても一生理解できません。文章を読みながら頭の中で動画を想像してください。そして紙に書いてみてください。

はじめに、DNAヘリカーゼは水素結合を切断して2本鎖DNAを開裂させると説明しました。

実際のDNA複製では、DNAヘリカーゼで水素結合を切断しながら、開裂した部分から同時並行的にプライマー・DNAポリメラーゼが結合し、新生鎖の合成が行われています。

2本のDNA鎖が完全にバラバラになって後で、DNAポリメラーゼが結合するのかと思ってました

よくある勘違いですね。例えば、2人で何かの流れ作業をする時を想像してみてください。

1人目の作業が全部終わってから、2人目の作業を開始する、というのは、めちゃくちゃ効率が悪いですよね?

1人目の作業を進めつつ、終わったところから2人目の作業も進める方がはるかに効率的です。これと同じことです。

開裂と合成が同時に行われるのはわかったけど、それの何が難しいの?

それについてこれから説明しましょう。

次の図で、DNAヘリカーゼは左に向かってドンドン水素結合を切断して、2本鎖のDNAを2つにバラしていますね。

しつこいですが、DNAポリメラーゼは5末端→3末端方向にしか進めません。なので、新生鎖Aは左に向かって新生鎖が合成されていきますね。

新生鎖Aが合成される向きはDNAヘリカーゼによるDNAの開裂方向と同じです。まずはこれを確認してください。

一方で、新生鎖Bはどうでしょうか?

新生鎖BのDNAポリメラーゼも5末端→3末端方向にしか進めないので、右に向かって新生鎖は合成されます。

これはDNAの開裂方向と逆です。何が問題か分かりますか?

DNA2本鎖が開裂した部分にしかプライマーは結合できないために、新生鎖Bでは一気にまとめて新生鎖を合成できないんです。

新生鎖Aでは、合成の方向と開裂の向きが同じなので、最初に結合したDNAポリメラーゼがDNAヘリカーゼを追いかけるように進行していくことができます。

しかし、新生鎖Bでは向きが真逆なので、たくさんのDNAポリメラーゼが少しずつ新生鎖を合成していくしかないのです。

新生鎖Aのように、開裂の方向とDNAポリメラーゼの進行方向が同じ鎖をリーディング鎖と言います。
対して新生鎖Bのように、開裂の方向とDNAポリメラーゼの進行方向が逆の鎖をラギング鎖と言います。

日本語で「映像のラグがひどい」「回線ラグってる」とか言いますよね。Lagとは「遅れ」、ラギング鎖ではチマチマ合成が進むということです。

ラギング鎖で合成されるたくさんの短いDNA断片を岡崎フラグメントと言います。

日本人の研究者である岡崎令治が発見しました。

DNA複製⑤: ラギング鎖の結合

ずっと断片のままだと困るので、最終的に全ての岡崎フラグメントは結合されます。

岡崎フラグメント同士を繋ぎ合わせる酵素をDNAリガーゼと言います。

DNAリガーゼはしばしば「糊(のり)」に例えられます。

DNAリガーゼによって岡崎フラグメント同士が結合されることで、DNAの複製は全て完了します。

最終的には、この複製された2つのペアのDNAが、核分裂、細胞質分裂によって娘細胞に1セットずつ分配されます。ここまでお疲れ様でした。

あれ? オレンジ色のプライマーがなぜか消えていますよ?

実は、DNAリガーゼで結合される前に、プライマーは除去されてDNA配列に置き換わります。

詳しくはこの後の補足を読んでください。ただし、まずはここまでの過程を十分に理解しましょう

よくある間違い・勘違い

答える時にDNAポリメラーゼとRNAポリメラーゼどっちか分からなくなります...

冷静に考えましょう。DNAを作るのがDNAポリメラーゼ、RNAを作るのがRNAポリメラーゼです。

複製はDNAを、転写はRNAを作ることが目的です。

つまり、複製で登場するのがDNAポリメラーゼ、転写で登場するのがRNAポリメラーゼです。何も難しくありません。

岡崎フラグメントが何なのか分からなくなります...

説明した通り、岡崎フラグメントとは「ラギング鎖で合成される、短いDNA断片」です。プライマーとゴチャゴチャにならないようにしてください。プライマーから続いて作られる短いDNA鎖の1つ1つが岡崎フラグメントです。

補足: プライマーはDNA?RNA?

(ここは少しややこしいので、不用意に混乱しないためにも、上記のDNA複製のメカニズムを自分で説明できるようになってから読むことをオススメします。)

DNAの複製で登場する短い配列断片であるプライマーは、実はDNAではなく、RNAから出来ています。(入試でもちょこちょこ問われます)

DNAの複製は、DNAを作りたいわけです。なのに、配列断片としてRNAが登場するのはちょっと変ですよね?(変だなあと思ってください)

だって、RNA、つまりU(ウラシル)を含んだDNAのコピーが出来たら困ります。でも実際にはそういうことは起こりません。

何が起こっているかというと、複製が終わった後に、RNAプライマーは除去されて、DNA配列に置き換えられるんです。
(ちなみにこの置き換えを行なっているのもDNAポリメラーゼです。DNAポリメラーゼは新生鎖の合成以外にも働いているんですよ。)

「だったら最初からDNAプライマーを使えばいいのに」ってぼやきが聞こえてきました。そうなんです。でも、生体内ではそうなっていないんです。
(進化的な理由は分かりません。RNAの方がDNAより安定だからとか理由があるのかも。知ってる人は教えてください。)

人工的にDNAを複製するPCR法では、RNAプライマーではなくDNAプライマーを使います。わざわざRNAプライマーを使う理由がないからです。これも入試でたまに問われます。